5.玉石混淆の検査会社
少し話は変わりますが、私の友人で内科の開業医ですが、その医院でもやはり「ゲノム・ドック」をやっています。友人なので、いろいろ尋ねたところ、よくよく聞いてみれば、どうやら2年ほど前、いきなり業者が訪問してきて「先生のところで遺伝子ドックをやりませんか?」と切り出してきたということです。曰く「患者がいれば、予約を取って頂き、事前に検体郵送ボックスを送るので、患者の血液を5cc採血して、クール宅急便で送ってくれるだけで良い。詳細な検査結果を一ヶ月ほどで送るので、先生は患者に、そこに書いてある通りに説明してくれれば良い。卸価格がこれこれなので、だいたいこのくらいの値段でやれば充分、儲けになりますよ」と。
で、さらに詳しく話を聞いてみますと、それはどこかのベンチャー企業らしく、その私の友人の医師は、検体をどこの研究所でどのように解析し、誰がその診断・判定をしているかもよく知らないと言います。
そんないい加減なベンチャー企業が、飛び込み営業を掛けて、しかも私どもの世代の医者ですと、昨今の若い先生方ほどにゲノムや遺伝子の勉強などしていません。
実際、私どもが医学生だった頃は、遺伝子学の研究も進んでおらず、学ぼうにも、教科書にもそこまで書かれていなかったのですから、知らなくて当たり前なのですが、私どもの知識が貧困であるところにつけ込んで、言われるがままに、遺伝子健康診断をクリニックに押し売りする。
そんなベンチャー企業に言われるがままにクリニックの、いわば「商品」としてメニューに載せている施設が、調べると驚くほど多いのが現状です。言葉を返せばそれだけ「美味しい」ビジネスであるとも言えます。
そしていまお話ししたような、医者をバカにした検査会社、そしてその医者も、あえて私の友人ですから申しますが、患者さんをバカにしていると言われても仕方ありません。
「私は日本臨床ゲノム医療学会という、真面目にゲノム・ドックの普及に取り組んでいる学会員で、検査と解析は国立大学の研究室で、最高のスタッフの手で行われており、その結果の判定もきちんとした診断基準に基づいて、遺伝学の専門医と研究者によって行われています」そう言ってしっかりと自信を持って患者さんに伝えられる事、これを重要視しています。
6.戻ってきた検査結果を、患者さんにどのように説明するか
結果説明ですが、これは予約制で、日曜日とか、特別枠を取って最低でも30分間、時間をかけて説明しています。これはとても大切な事です。
なにせ大金を払って検査を受けて、自分の将来の「死に様」を予想してもらう。そんな患者さんに取っては、ある意味、死刑宣告を受けるほどの気持ちで来院されているのです。例えば…。
「今回の遺伝子検査であなたに、大腸癌が要注意だと言う結果が出ました。一方、胃癌の項目は健常ゾーンに入っていますので、毎年人間ドックなんか受けて、バリウム飲んだり、胃カメラしたり、不必要な検査を受けるのはナンセンスです。それより、大腸癌に特化して、年に一度、いや、半年に一度、検査していけば良いんですよ」とか。
例えばそれが女性なら「あなたは乳癌の健常ゾーンにあって、子宮頸癌に要注意という結果が出ています。とすれば、乳癌検診やマンモ・グラフィーなんて痛くて恥ずかしい検査は五年に一度程度、受ければ良いんです。その代わり、子宮癌検診は半年に一度は受けましょうね。その方がピン・ポイントで効率よく検査できます。そしてそのたった半年の違いが、あなた寿命に関わる貴重な時間なんですよ」とか。
毎年、人間ドックで、不必要な検査を続ける意味がない事を判ってもらいます。それより、危ないと指摘された癌だけを集中的に、半年に一回検査を受けた方がよっぽど効率が良いし、早期発見の可能性は飛躍的に高まります。